コリン・ウィルソン「アウトサイダー」

こんばんは、皆様、三頌亭店長です。旧記事ですが、読んでみたら割といいので(自分でいうのもなんですが・・・(^^;))再度掲載いたしますw。


『ところで、他の本を探していたら出てきたのでちょっと恥ずかしいのですが紹介いたします。コリン・ウィルソンアウトサイダー」(紀伊国屋書店:1957)です。これに「続アウトサイダー」と「宗教と反抗人」で一応ひとつの著作となります。まあいわゆる「青春の読書」のうちのひとつで少々恥ずかしいです(笑)。高校生から大学にかけてというところなんですが、コリン・ウィルソンっていうのが颯爽としててカッコよかったのでしょう。彼の処女作でイギリスのゴランツ社から出ました。

当時、いわゆる実存主義でくくられる作家達(カミュカフカサルトル)なんかの翻訳本をかじって喜んでおりました。わけてもカフカのわけのわからなさがなんとも魅力的で全集まで読みました。ちょうどそのときであった本です。ニーチェのいう「善悪の彼岸」を夢見た芸術家、宗教家たちの系譜をたどる本でした。コリン・ウィルソンはなんとバルビュスの「地獄」からはいってカミュ、ウェルズ、サルトルと来てヘッセ、T・E・ロレンスからゴッホカフカへ至り、ニーチェときます。そしてドストエフスキーに丸々2章を費やして「アウトサイダー」の問題を論じます。

アウトサイダー」とは彼の定義によれば通常の社会規範の外にあって、自己実現、進化をとげる社会に対立した存在のことをいうらしいです。ステロタイプにいうと実存主義の地平から見た、祖先の系譜といったところです。コリン・ウィルソンの見方はどうあれ、ある種の地図を与えてくれた本でした。ドストエフスキーなんかもこの本がなければ読まなかったに違いありません。「ロシアのかんしゃくもちのおっさんのたわごと」なんか読む気はございません・・などと思ってましたから(笑)。

実は私の興味は「天国と地獄の結婚」のウイリアム・ブレイクや「アウトサイダー」として当然扱うべきサドなどでした。とりわけブレイクについては彼の絵を見て大変感心したので興味がありました。残念なことにこの本が書かれたころには完全に解禁されていなかったサドは含まれてはいません。ブレイクについては一章が当てられていましたが・・・。

現在では到底読む気力がついていかない本ですが、思い出深い本として、また最近あまり読まれなくなった本として、紹介いたします。現在、集英社文庫に収められています。余談ですがこの本は、芸術や哲学、宗教などを扱って、旧来の西欧的自我がボコボコにされていく様を順を追って説明していますが、世紀末を越えて科学や人文科学(フロイトマルクス)によって西欧的自我はさらに徹底的に痛めつけられることになります。

追記:ドストエフスキーに関しては「アウトサイダー」はなかなか圧巻です。また、ドストエフスキーの本は正直言って私にはほとんど小説としての面白みを感じさせてくれませんでした(笑)。あるベテランの翻訳家2人の対談でドストエフスキーの翻訳で有名な***氏の翻訳は余りよくないということをいっていました。やはり文章の問題をなおざりにして概論的な内容だけを言うのはよくありませんね(笑)。もっというと「アウトサイダー」の翻訳も今ひとつかと・・(わかりにくい)。これは英文読みました。』

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コリン・ウィルソンアウトサイダー、続アウトサイダー

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コリン・ウィルソン

 

いまさらですがソ連邦(速水螺旋人, 津久田重吾)

こんばんは、皆様、三頌亭です。今日は少し変わった本を紹介いたします。三才ブックスの「いまさらですがソ連邦」です。ムック本に近いのですが、なかなか要領よく解説してあって面白いです。三頌亭は冷戦真っ盛りの時代からその崩壊の時代までを日本からみてきたわけですが、ソ連というのはよくわからない不思議な国だなあというのが印象でした。本当にいまさらですがソ連邦についておさらいしてみるのも悪くない試みだと思いこの本を買ってみました。本当はレフチェンコ事件のスタニスラフ・レフチェンコのインタビュー本でも紹介しようかと思ったのですが、こちらのほうが最近向きで風通しがいいので選びました。

ソ連邦は計画経済の国でした。ほぼ70年を要した前代未聞の経済実験は失敗に終わりました。これは三頌亭の私見ですがソ連邦の崩壊は要するに経済破綻が主たる原因ではなかろうかと思っています。共産主義国家というのはその完全な経済破綻の前に起こる国家の一形態ではないかと・・・思うわけです。おそらく中国もほどなく同じ運命をたどるのでしょう。かたずをのんでその行方を見守りたいですねw。

ところで昔ソ連の大使館が出していたPR誌に「今日のソ連邦」というのがあったのですが、あれよりはこの本はだいぶ面白いですw。

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いまさらですがソ連邦01

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いまさらですがソ連邦02

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いまさらですがソ連邦03

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いまさらですがソ連邦04

 

H・H・エーヴェルス「魔法使いの弟子」

こんばんは、皆様、三頌亭です。この本も以前読んだのですが、紹介していなかった本です。これで邦訳のあるエーヴェルスの本は大体記事にしてしまったように思います。「吸血鬼」と同じくフランク・ブラウン物の最初の作品です。

この作品は簡単に言うととある平和な寒村に「カルトな宗教」を植え付けてみたらどうなるかという作品です(^^;)。マスヒステリーの恐怖を描く、ある意味危ない作品ですねw。話はガラッと変わるんですけど、ディズニーアニメの「ファンタジア」ってごらんになったことがありますか?。あの作品でミッキーマウスが師匠のいない間に魔法を使っていたずらしたら収拾がつかなくなってしまうお話があるんですが、「ファンタジア」では師匠が最後に始末してくれます。エーヴェルスの「魔法使いの弟子」ではそれがありません。救いなしでございます(^^;)。ヨーロッパの作家は残酷のセンスが一味違うなと読んだ時には思ったものです。アンリ=ジョルジュ・クルーゾーの映画に「密告」というのがありますがああいった残酷のセンスと通じるものがあるように三頌亭は思ってます。

出版社紹介
『フランク・ブラウンは著作にはげむべく、辺境の地、湖のほとりの村へと赴く。死ぬほど退屈しきった村人たちは、一帰郷者によってもたらされた、一種の懺悔宗ともいうべき信仰に凝りはじめていた。彼は一人の愛人を得るが、彼女と帰郷者を暗示にかけて、これらの村人たちを狂信の徒に仕立て上げてゆく。そしてついには凄惨な光景が・・・・。

『アルラウネ』『吸血鬼』の先駆けをなす本書において、エーヴェルスは、自らの術に溺れる『魔法使いの弟子』の民話をかりながら、民族と血の問題に思いをひそめ、博学な知識を駆使して宗教の底に潜む三位一体―狂信、悦楽、残忍性―を、透徹した現実認識でもってえぐり出す。それはまさに、予言的であるとすらいえる。』

 

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H・H・エーヴェルス「魔法使いの弟子

 

ウィリアム・アイリッシュ「幻の女」

こんばんは、皆様、三頌亭です。今日は大変有名なミステリ作品のお話です。学生時代、アイリッシュが好きでせっせと本を集めて読んでいた時期があります。本格推理というとついつい手を出してしまう三頌亭ですが、本当はサスペンス小説のほうが好きなのではないかと自分でも思うことがあります。

アイリッシュというと有名なのが「幻の女」です。これには乱歩の熱に浮かされたようなエッセイがあって、これを読んで「幻の女」を読まない人がいたら、そのひとはきっとミステリは嫌いなのではないかとすら思ったものでした。
「昭和21年2月20日読了、新しき探偵小説現れたり。世界十傑に値す。ただちに訳すべし。不可解性、サスペンス、スリル、意外性、申し分なし」と乱歩は記しています。

私も多分に漏れず、当時出ていた稲葉氏の翻訳を読んで大変感心したものでした。私が好きだったのは全編を覆うなんともいえない孤独感で、私生活でも大変孤独であったアイリッシュの人となりが良く表れているものでした。ストーリー自体は今となっては少し使い古されたものになってしまいましたが、その細部の描写は今でもじゅうぶん鑑賞に堪えるものでしょう。

写真は乱歩が読んだものと同じ版のポケットブックです。現在でも乱歩邸には彼の書き込みのあるこのペーパーバックが保存されています。もう一冊は同時期のウールリッチ名義の傑作「黒い天使」です。これらは戦後すぐの出版ですがたくさん残っていてまだ廉価に入手出来るようです。

*過去記事からの転載です。写真のペーパーバックはいまはもうありませんが、paperback warehouseというペーパーバック専門の古書店から買ったものです。ご店主はこの本はこういう商売を始める契機となった本だといってこのポケットブック版の「幻の女」あげておられました。三頌亭とよく似た思いの方がおられたので非常にうれしかったものです。

 

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ポケットブック版「幻の女」

 

H・H・エーヴェルス「アルラウネ」

ドイツの怪奇小説というのはなんとなく野暮ったそうで敬遠していた時期がありました。そんなときに読んだのがハンス・ハインツ・エーヴェルス「アルラウネ」です。一読、その通俗的な面白さに驚かされ、その後、翻訳のドイツ怪奇小説を次々と読むことになりました。

エーヴェルスもいわば大戦間のはざ間の文芸といえるかもしれません。エーヴェルスは1910年代から始まるドイツの怪奇文学ブームの中心人物として活躍した人物です。日本では海外文学の動向に敏感であった森鴎外が「諸国物語」にエーヴェルスの「己の葬」を始めて紹介しました。また、戦前には「新青年」などに「蜘蛛」を始めとするいくつかの短編が紹介されております。

前世紀初頭、ドイツに起こった怪奇幻想文学のムーヴメントはホフマンやポオの系列を受けクービン、シュトローブル、パニッツァを輩出しました。その中でエーヴェルスの作品は当時ドイツ映画界に起こったドイツ表現主義に格好の題材を提供して、最も名声のあるものでした。

「アルラウネ」はそのエーヴェルスの作品の中で最もよく売れたもの・・ベストセラーです。「アルラウネ」はマンドラゴラ伝説を材にとり奇怪な人造人間の夢を描いた怪奇小説です。またこれは人工受精を扱ったSF作品の嚆矢といえるかもしれません。

しかしこの作品を一言でいうなら通俗作品、それもとびっきりの大衆小説で、その怪奇なファンタジーとグロテスクさ、この時代には破格のテンポの良さが身上の稀な作品といえます。現代の読者でも安んじて楽しめることを請合いましょう(笑)。

「アルラウネ」の初版本は画家のエーヴェルス夫人によってアールヌーヴォー風の装丁が凝らされた綺麗なものです。24万部近く売られたこの版は今日では著しく希少な本となってしまっています。私は古書店のカタログでしか見たことはありませんが、非常に魅力的な装本でした。

写真は国書刊行会版の「アルラウネ」(上下巻:1979)とエーヴェルス短編集「蜘蛛・ミイラの花嫁他」(創土社:1976)です。どちらも絶版ですが入手は容易です。追記:本邦では橘外男「妖花イレーネ」が映画版の「アルラウネ」にヒントを得た作品です。

旧記事からの転載ですがワグナーのリストにも載せられておりまして、やはりエーヴェルスのこの方面の代表作と思われますので再度掲載いたします。国書刊行会さん、ebookでいいので再版をお願いいたします。

ご参考までにエーヴェルス「アルラウネ」の映画化作品についてお示ししておきます。「メトロポリス」のブリギッテ・ヘルムによるサイレント&トーキー映画が2本、戦後になって ヒルデガルト・クネフの主演のものが1本です。やっぱり当たり役はブリギッテ・ヘルムでしょうか?w。
Alraune - 1927; Brigitte Helm, Henrik Galeen
https://www.youtube.com/watch?v=WZjJmejaRc0

Alraune (Richard Oswald, 1930) Brigitte Helm (En, Dan subs)
*プリントがよくないです
https://www.youtube.com/watch?v=U3qYmB6P8pA

Alraune 1952 Hildegard Knef
https://www.youtube.com/watch?v=87FxxjQI5PY

 

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アルラウネ:邦訳

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1928「アルラウネ」ブリギッテ・ヘルム

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アルラウネ:ドイツ版書影

 

太刀掛秀子「ライラックの花のころ」

こんばんは、皆様、三頌亭です。今日のお題は太刀掛秀子さん「ライラックの花のころ」です。デビュー作「雪の朝」の次の作品でした。まだいわゆる「乙女ちっく」というキャッチコピーがなかったころの太刀掛さんの作品です。この方のごく初期の作品の絵柄は萩尾さんなんかに似ていました(鼻の描き方など)。その後徐々に掲載誌に特徴的な絵柄に変わります。

さてストーリーですが、悲恋ものですね。ただ、あつかったシチュエーションが統合失調症(schizophrenia)というところで大変暗い作品になっています。田渕、陸奥ご両人に比べてもともと暗いテーマが多い太刀掛さんですが、デビュー当時から暗いテーマで時々作品を描かれていました。高校生の夏休みくらいだったと思いますが、掲載誌で読んだ作品でした。テーマもさることながら、太刀掛さんの作品自体、最近読まれなくなって、今後復刻される可能性は少ないだろうと思われるので取り上げました。余談ですが、このマンガでリラ(主人公の名前)とライラックが同じ花の名前だということを初めて知りました(笑)。

Yahooブログからの転載ですが、何かと熱心にアクセスしてくれる方が多かったので再掲しておきます。いまだに三頌亭は掲載誌を入手できないでいます。

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ライラックの花のころ01

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ライラックの花のころ02

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ライラックの花のころ03





エーヴェルスの短編「トマト・ソース」

こんばんは、皆様、三頌亭です。エーヴェルスの「吸血鬼」のお話を出しましたのでついでに思い出したエーヴェルスの短編「トマト・ソース」のことを書いておきます。この短編はストーリーは非常に単純でだれにも簡単にわかる代物です。しかしその題材と描写たるや・・・もう問答無用の直接的な強烈さがあって素晴らしいです・・・(^^;)。しかし、・・・悪趣味ですな~、本当に。なんのことやらよくわからないといけませんので・・・、この作品の骨子は2人の男の下半身を固定した状態でナイフを持たせて戦わせる「人間・闘鶏」です。なぜ表題が「トマト・ソース」なのかは推して知るべしであります。英訳本(『Blood』:オリンピア・プレスの出版らしい)に掲載された挿絵を二つ載せておきます。ゴヤのパチモンのような画風が非常によくこの作品にマッチしています。 因みに英文テキストはこちらです。
http://magick7.com/MoonlightStories/1/05/0143.htm
邦訳には「吸血鬼」の前川氏の翻訳がありまして、幻想文学64号に掲載されています。
【FONS FANTA】翻訳幻想譚集
ハンス・ハインツ・エーヴェルス『トマト・ソース』(前川道介訳)
http://www.atelierocta.com/pages2/64.html
なんとまだ在庫がございますw。三頌亭がその昔、本屋で立ち読みして印象に残った残酷小説のお話でした。

 

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トマトソース01

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トマトソース02