「黒石怪奇物語集」(桃源社:1972)

こんばんは皆様、三頌亭です。かなり意欲的な編集の割には全く売れなかったものというのがありまして、緑書房の「大泉黒石全集(全9)」(1986)なんかもそのひとつでしょう。では簡単に大泉黒石の略歴をネットから・・。

大泉黒石(おおいずみ こくせき 1893年 - 1957年)は日本のアナキスト作家、ロシア文学者。長崎にて、ロシアの外交官と日本人女性の間に生まれる。日本名、大泉清。ロシア名アレクサンドル・ステパノヴィチ・キヨスキー。幼児に両親と死に別れて渡欧し、ロシアやパリで過ごす。(ロシアでは近所にレフ・トルストイがいた。)のち日本に戻り、長崎の鎮西学院を卒業。旧制第三高等学校(現在の京都大学総合人間学部)と旧制第一高等学校(現在の東京大学教養学部)をそれぞれ中退。著書に特異な自伝『俺の自叙伝』『人間開業』『人間廃業』などがある。ロシア文学者としての著書に『ロシア文学史』。『大泉黒石全集』が刊行されている。」

私が大泉黒石の名前を知ったのは「大泉黒石怪奇物語集」(桃源社)で、当時、由良君美氏が発掘に力を入れていたようでした。後に彼の肝入りで緑書房の「大泉黒石全集(全9)」が出版されることになりますが、由良君美氏が亡くなってしまった為、完全な形としての全集にはなりませんでした。

長崎を舞台にした怪奇小説(「黄夫人の手」「天女の幻」など)は長らく私の頭に残っておりまして、全集刊行を楽しみにしていたものです。全くのロシア人が日本語を読み書きできたらどのようなものを残すでしょうか?。それが大泉黒石の書いた物といえます。色々なものの見方にある種の欠落(日本人ならばあるであろう)があってそれが非常に斬新な視点となっているところが、ユニークな作品群です。

自らを「国際的居候」或いは「夜逃げの天才」と称しているとおり、かなり破天荒な人生を歩んだ人でして、突飛な逸話には事欠かない人物だったようです。今まで全集が無いことで、読まれることが少なかった作家ですので試してみられるのもいいでしょう。英語で戯曲を書きイェイツ認められた白樺派の作家、郡虎彦と並んで外国語を勉強する人たちには興味ある存在であることでしょう。

余談ですが、大泉黒石の息子さんは俳優で大泉滉といいます。「ウルトラマン」シリーズを始めたくさんの映画に名脇役として記憶されています。これが髭を生やすと、血は争えないといいますか、お父さんそっくりですね(笑)。


追記1:過去記事からの転載です。古い記事で恐縮でございます。緑書房の「大泉黒石全集(全9)」が出てからだいぶ時間がたってしまいまして、この全集も絶版となってしまいました。河出文庫から怪奇小説方面の傑作選「黄(ウォン)夫人の手--黒石怪奇物語集」が出版されていましたが現在品切れだそうです。収録作品は以下の通り。
「戯談(幽鬼楼)」
「曽呂利新左エ門」
「弥次郎兵衛と喜多八」
「不死身」
「眼を捜して歩く男」
「尼になる尼」
「青白き屍」
「黄夫人の手」


追記2:国会図書館のデジタルコレクションにて以下の作品集を読むことができます。再版された作品集に収録されている大泉黒石の短編のほとんどを読むことができるようになりました。

「黄夫人の手」(春秋社:大正13)
http://www.dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/979461

「恋を賭くる女」(南北社 :大正12)

http://www.dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/908875

「黒石怪奇物語集」(新作社:大正14)

http://www.dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/908875

「血と霊」(春秋社:大正12)

http://www.dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/987304

「眼を捜して歩く男 : 怪奇小説集」(騒人文庫:昭和12)

http://www.dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1109115

 

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「黒石怪奇物語集」(桃源社

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大泉黒石全集(全9)」(緑書房

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「黄夫人の手」(河出文庫