ポール・アルテ「第四の扉(La Quatrième Porte)」

こんばんは、皆様、三頌亭です。ポール・アルテですね。三頌亭日乗で取り上げるのはたぶん初めてです。余談ですが5月に、来日したらしいです。ところでツイスト博士のデビュー作「第四の扉」でございます。やっぱりいまのところの代表作でしょうか?。J.D.カーの衣鉢を継いだフランス作家の面目躍如といったところで、非常に意欲的な作品です。往年の黄金時代の探偵小説よろしくトリック満載なのですが、そのキモはひねりまくったプロットにあると思います。最近、「カササギ殺人事件」を読んだので、思い出した作品です。もう発表から時間がたってしまっているので読んだ方も多いと思いますが、お勧めしておきます。私見ですが割合日本の読者向きのパズラーでしょう?。

 

早川書房・作品紹介
「密室で夫人が自殺して以来、奇怪な噂の絶えないダーンリーの屋敷。幽霊が歩き回るというこの家に移り住んできた霊能者の夫妻は、関係者を集めて交霊実験を試みる―それは新たな事件の幕開けだった。死体を担ぐ人影。別の場所で同時に目撃された男。そして呪われた部屋に再び死体が現れる…奇術のごとく繰り出される謎また謎!各探偵の語る最後の一行が読者にとどめを刺す!フランス本格推理の歴史的傑作。」

 

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早川書房・ポケットミステリ版

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フランス版:France Loisirs, 2002

 

「黒石怪奇物語集」(桃源社:1972)

こんばんは皆様、三頌亭です。かなり意欲的な編集の割には全く売れなかったものというのがありまして、緑書房の「大泉黒石全集(全9)」(1986)なんかもそのひとつでしょう。では簡単に大泉黒石の略歴をネットから・・。

大泉黒石(おおいずみ こくせき 1893年 - 1957年)は日本のアナキスト作家、ロシア文学者。長崎にて、ロシアの外交官と日本人女性の間に生まれる。日本名、大泉清。ロシア名アレクサンドル・ステパノヴィチ・キヨスキー。幼児に両親と死に別れて渡欧し、ロシアやパリで過ごす。(ロシアでは近所にレフ・トルストイがいた。)のち日本に戻り、長崎の鎮西学院を卒業。旧制第三高等学校(現在の京都大学総合人間学部)と旧制第一高等学校(現在の東京大学教養学部)をそれぞれ中退。著書に特異な自伝『俺の自叙伝』『人間開業』『人間廃業』などがある。ロシア文学者としての著書に『ロシア文学史』。『大泉黒石全集』が刊行されている。」

私が大泉黒石の名前を知ったのは「大泉黒石怪奇物語集」(桃源社)で、当時、由良君美氏が発掘に力を入れていたようでした。後に彼の肝入りで緑書房の「大泉黒石全集(全9)」が出版されることになりますが、由良君美氏が亡くなってしまった為、完全な形としての全集にはなりませんでした。

長崎を舞台にした怪奇小説(「黄夫人の手」「天女の幻」など)は長らく私の頭に残っておりまして、全集刊行を楽しみにしていたものです。全くのロシア人が日本語を読み書きできたらどのようなものを残すでしょうか?。それが大泉黒石の書いた物といえます。色々なものの見方にある種の欠落(日本人ならばあるであろう)があってそれが非常に斬新な視点となっているところが、ユニークな作品群です。

自らを「国際的居候」或いは「夜逃げの天才」と称しているとおり、かなり破天荒な人生を歩んだ人でして、突飛な逸話には事欠かない人物だったようです。今まで全集が無いことで、読まれることが少なかった作家ですので試してみられるのもいいでしょう。英語で戯曲を書きイェイツ認められた白樺派の作家、郡虎彦と並んで外国語を勉強する人たちには興味ある存在であることでしょう。

余談ですが、大泉黒石の息子さんは俳優で大泉滉といいます。「ウルトラマン」シリーズを始めたくさんの映画に名脇役として記憶されています。これが髭を生やすと、血は争えないといいますか、お父さんそっくりですね(笑)。


追記1:過去記事からの転載です。古い記事で恐縮でございます。緑書房の「大泉黒石全集(全9)」が出てからだいぶ時間がたってしまいまして、この全集も絶版となってしまいました。河出文庫から怪奇小説方面の傑作選「黄(ウォン)夫人の手--黒石怪奇物語集」が出版されていましたが現在品切れだそうです。収録作品は以下の通り。
「戯談(幽鬼楼)」
「曽呂利新左エ門」
「弥次郎兵衛と喜多八」
「不死身」
「眼を捜して歩く男」
「尼になる尼」
「青白き屍」
「黄夫人の手」


追記2:国会図書館のデジタルコレクションにて以下の作品集を読むことができます。再版された作品集に収録されている大泉黒石の短編のほとんどを読むことができるようになりました。

「黄夫人の手」(春秋社:大正13)
http://www.dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/979461

「恋を賭くる女」(南北社 :大正12)

http://www.dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/908875

「黒石怪奇物語集」(新作社:大正14)

http://www.dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/908875

「血と霊」(春秋社:大正12)

http://www.dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/987304

「眼を捜して歩く男 : 怪奇小説集」(騒人文庫:昭和12)

http://www.dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1109115

 

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「黒石怪奇物語集」(桃源社

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大泉黒石全集(全9)」(緑書房

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「黄夫人の手」(河出文庫



 

アンソニー・ホロヴィッツ「カササギ殺人事件(Magpie Murders)」

こんばんは、皆様、三頌亭です。これも積読本の消化ですw。実はわけあってebookで読んでおります。書店で邦訳を見たときはページ数のわりに2分冊だったのに、PBだとなぜ1冊なのか不思議に思ってましたが、読んで納得しました。この作品は古典的な探偵小説と現代的な推理小説のサンドイッチで出来ております。どちらもよくできていて面白いのですが2つの作品が密接に絡み合っていることがこの作品のオリジナルなところでしょう。このあたりのトリッキーな構成は作者のキャリアが脚本家であることとも関連があるようにも思います。

ここからはどうでもいい個人的なインプレですww。葬式のシーンが良く描けていて感じがいいですねえ~。後半ではA.A.ミルンの「クマのプーさん」の話が出てきてにやにやしてました・・・案外後半のプロットのキモじゃないいいかと三頌亭は思うのですが・・・(^^;)。前半は葬式まで読むスピードが乗らなかったので時間がかかっていたのですが、後半は一気読みでございましたw。因みに英文は大変大変読みやすいです。余談ですが、カササギ(白黒のカラスみたいな鳥)って私の住んでいるところにはいないので見たことがないです


出版社紹介
「ミステリ界のトップランナーが贈る、すべてのミステリファンへの最高のプレゼント!
1955年7月、パイ屋敷の家政婦の葬儀がしめやかにおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけたのか、あるいは……。その死は小さな村の人々へ徐々に波紋を広げていく。消えた毒薬、謎の訪問者、そして第二の死。病を抱えた名探偵アティカス・ピュントの推理は――。現代ミステリのトップ・ランナーによる、巨匠アガサ・クリスティへの愛に満ちた完璧なるオマージュ作品!」

 

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カササギ殺人事件

 

ジョージ・ウォーレス, ドン・キース「Hunter Killer(Firing Point改題、邦訳:『ハンターキラー潜航せよ』早川文庫)」

こんばんは、皆様、三頌亭です。たまった積読本の消化期間ですw。今ちょうど映画をやってるところでしょうか.。いわゆる潜水艦モノのポリティカル・アクションです。作者のジョージ・ウォーレスのほうが原潜の艦長さんをやっていただけあって、潜水艦関連の描写はリアルかつスリリングで素晴らしいです。ただこの手の作品としてオリジナルな発想は並行して描かれるロシアン・マフィアによる金融テロのストーリーでしょう。ニューヨークの証券取引所のコンピューターにチートなプログラムをまぎれこませて、株式の大暴落を引き起こさせようとする発想がいいですね~。プログラムのコードネームが傑作で「OptiMarx(最適化マルクス)」といいますww。というわけで勧善懲悪&お決まりのストーリーですが、まずまずの作品でした。因みに英文は大変読みやすい作品です・・・(^^;)。

出版社紹介

ロシア海軍原子力潜水艦が北氷洋で沈没。救助に急行したアメリカ海軍原潜も現場で攻撃を受け、犠牲となった。すべてはロシア海軍提督ドゥロフの謀略だった。クーデター実行のため、米ロ間に緊張状態を作り出そうというのだ。異変を察知した米海軍は新任艦長グラスが率いる原潜トレドを現場海域に派遣し、同時にロシア艦隊基地へ特殊部隊を送る。その彼らの眼前で、事態は思わぬ展開を見せた!潜水艦アクション超大作。」

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ハンターキラー潜航せよ 上巻

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ハンターキラー潜航せよ 下巻

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Hunter Killer

 

 

三頌亭縁起再訪

こんばんは、皆様、三頌亭です。さて、お気づきの方もおられるかもしれませんが、当ブログのタイトル「三頌亭日乗」はある本の題名から思いついたものです。別に深い意味はないのですが、とっさに思いついたのが当ブログのタイトルとなっております。その本は式場隆三郎二笑亭綺譚」(昭森社:昭和14)といいます。色々な本が出版されますが、類書が無いという点では飛び切りの本で、それゆえか時代は変われ、なかなかしぶとく再版され続けております。

この本は山下清を発掘した精神科医式場隆三郎による、怪奇な建築・二笑亭のルポタージュです。戦前、東京深川にあった分裂病のお金持ちが立てた家「二笑亭」に関する唯一の資料がこの「二笑亭綺譚」です。この本にはモノクロ写真40枚ほどが載せられておりまして、その不思議な建築の詳細を理解できるようになっています。

ものの置けない傾斜した棚、登れないはしご、節穴に埋め込まれたガラス板(のぞき穴)、和式と様式のくっついた風呂、独特のデザインの玄関・・などなどなんとも不思議な異空間というのがぴったりの「二笑亭」です。傑作だったのはやはり壁土に除虫菊を塗りこめる(蚊除け)というアイデアでした(笑)。また二笑亭主人の語録が収められていてこれがなんとも奇矯なものばかりでした。


この本は昭和14年昭森社より発行されておりまして、限定版のほうは芹沢銈介装幀で跋文を柳宗悦が書いております。写真はネットから拾ったものです。余談ですが、何度か売られているのを見ましたが大変高価でした。現在までのところ色んな版があるのですが、筑摩文庫に収められたものが一番入手しやすいです。

追記:類似のテーマとして次のような本があります。

岡谷公二氏「郵便配達夫シュヴァルの理想宮」(河出文庫
https://4travel.jp/travelogue/10658060
こちらは観光名所で現在も残っております。ブルトンやマルローが絶賛した怪建築です。

ロバート・リンドナー「宇宙を駆ける男」( The Jet-Propelled Couch
精神科医ロバート・リンドナーの臨床報告集。何といっても圧巻は「宇宙を駆ける男」でしょう。SF作品ともいえる精緻な描写には脱帽です。臨床報告であるにもかかわらず、人間精神の複雑さを垣間見させてくれる稀な作品といっていいでしょう。
『宇宙を駆ける男 精神分析医のドキュメント』(川口正吉訳:金沢文庫1974)
『宇宙を駆ける男』(再録:新人物往来社『怪奇幻想の文学7 幻影の領域』1979)

追記その2
旧記事からの転載です。この記事を書いてからほどなくして収録本を入手しました。
Robert Lindner, Jonathan Lear「The Fifty-Minute Hour」(Other Press 1999)
現在邦訳は絶版なので残念です。どなたか、アンソロジーにでも収録してしてくれないかとよく思います。

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二笑亭綺譚01

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二笑亭綺譚02

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理想宮

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ロバート・リンドナー「宇宙を駆ける男」

 

コリン・ウィルソン「アウトサイダー」

こんばんは、皆様、三頌亭店長です。旧記事ですが、読んでみたら割といいので(自分でいうのもなんですが・・・(^^;))再度掲載いたしますw。


『ところで、他の本を探していたら出てきたのでちょっと恥ずかしいのですが紹介いたします。コリン・ウィルソンアウトサイダー」(紀伊国屋書店:1957)です。これに「続アウトサイダー」と「宗教と反抗人」で一応ひとつの著作となります。まあいわゆる「青春の読書」のうちのひとつで少々恥ずかしいです(笑)。高校生から大学にかけてというところなんですが、コリン・ウィルソンっていうのが颯爽としててカッコよかったのでしょう。彼の処女作でイギリスのゴランツ社から出ました。

当時、いわゆる実存主義でくくられる作家達(カミュカフカサルトル)なんかの翻訳本をかじって喜んでおりました。わけてもカフカのわけのわからなさがなんとも魅力的で全集まで読みました。ちょうどそのときであった本です。ニーチェのいう「善悪の彼岸」を夢見た芸術家、宗教家たちの系譜をたどる本でした。コリン・ウィルソンはなんとバルビュスの「地獄」からはいってカミュ、ウェルズ、サルトルと来てヘッセ、T・E・ロレンスからゴッホカフカへ至り、ニーチェときます。そしてドストエフスキーに丸々2章を費やして「アウトサイダー」の問題を論じます。

アウトサイダー」とは彼の定義によれば通常の社会規範の外にあって、自己実現、進化をとげる社会に対立した存在のことをいうらしいです。ステロタイプにいうと実存主義の地平から見た、祖先の系譜といったところです。コリン・ウィルソンの見方はどうあれ、ある種の地図を与えてくれた本でした。ドストエフスキーなんかもこの本がなければ読まなかったに違いありません。「ロシアのかんしゃくもちのおっさんのたわごと」なんか読む気はございません・・などと思ってましたから(笑)。

実は私の興味は「天国と地獄の結婚」のウイリアム・ブレイクや「アウトサイダー」として当然扱うべきサドなどでした。とりわけブレイクについては彼の絵を見て大変感心したので興味がありました。残念なことにこの本が書かれたころには完全に解禁されていなかったサドは含まれてはいません。ブレイクについては一章が当てられていましたが・・・。

現在では到底読む気力がついていかない本ですが、思い出深い本として、また最近あまり読まれなくなった本として、紹介いたします。現在、集英社文庫に収められています。余談ですがこの本は、芸術や哲学、宗教などを扱って、旧来の西欧的自我がボコボコにされていく様を順を追って説明していますが、世紀末を越えて科学や人文科学(フロイトマルクス)によって西欧的自我はさらに徹底的に痛めつけられることになります。

追記:ドストエフスキーに関しては「アウトサイダー」はなかなか圧巻です。また、ドストエフスキーの本は正直言って私にはほとんど小説としての面白みを感じさせてくれませんでした(笑)。あるベテランの翻訳家2人の対談でドストエフスキーの翻訳で有名な***氏の翻訳は余りよくないということをいっていました。やはり文章の問題をなおざりにして概論的な内容だけを言うのはよくありませんね(笑)。もっというと「アウトサイダー」の翻訳も今ひとつかと・・(わかりにくい)。これは英文読みました。』

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コリン・ウィルソンアウトサイダー、続アウトサイダー

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コリン・ウィルソン

 

いまさらですがソ連邦(速水螺旋人, 津久田重吾)

こんばんは、皆様、三頌亭です。今日は少し変わった本を紹介いたします。三才ブックスの「いまさらですがソ連邦」です。ムック本に近いのですが、なかなか要領よく解説してあって面白いです。三頌亭は冷戦真っ盛りの時代からその崩壊の時代までを日本からみてきたわけですが、ソ連というのはよくわからない不思議な国だなあというのが印象でした。本当にいまさらですがソ連邦についておさらいしてみるのも悪くない試みだと思いこの本を買ってみました。本当はレフチェンコ事件のスタニスラフ・レフチェンコのインタビュー本でも紹介しようかと思ったのですが、こちらのほうが最近向きで風通しがいいので選びました。

ソ連邦は計画経済の国でした。ほぼ70年を要した前代未聞の経済実験は失敗に終わりました。これは三頌亭の私見ですがソ連邦の崩壊は要するに経済破綻が主たる原因ではなかろうかと思っています。共産主義国家というのはその完全な経済破綻の前に起こる国家の一形態ではないかと・・・思うわけです。おそらく中国もほどなく同じ運命をたどるのでしょう。かたずをのんでその行方を見守りたいですねw。

ところで昔ソ連の大使館が出していたPR誌に「今日のソ連邦」というのがあったのですが、あれよりはこの本はだいぶ面白いですw。

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いまさらですがソ連邦01

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いまさらですがソ連邦02

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いまさらですがソ連邦03

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いまさらですがソ連邦04