白石一郎「幻島記」(文芸春秋:1976)

こんばんは皆様、三頌亭です。今日は白石一郎の第一短編集「幻島記」です。滝口康彦の『異聞浪人記』を紹介した時に同時に思い浮かんだ作家が白石一郎です。彼らはプライベートで友人だそうで九州在住の時代小説の書き手でした。どちらも地方史に取材した作品を多く書いております。そのなかで三頌亭の一番印象に残っている白石一郎の作品集が「幻島記」です。

 

収録作品は「幻島記」と「蝸牛の城」「消えた男」「一炊の夢」「孤島の騎士」の5作品です。とりわけ瓜生島伝説を扱った表題作「幻島記」が面白いです。落魄の藩儒笠春兆の悲しさというか、偽説を自分自身に信じ込ませ、証拠を捏造までしていくところがなんとも哀れでよろしいですねw。また最後の「孤島の騎士」は出島商館長ヘンドリック・ドゥーフを題材にした短編で、ナポレオンによりオランダが消滅してしまった時期の出島のお話です。従来の美談とは異なりドゥーフの怪物ぶりが異様な迫力をもって書かれています。直木賞候補作3編を含む計5編の秀作短編集、皆様はいかがでしょうか?

 

因みに「瓜生島」については下記サイトをどうぞ。まんざら伝説でもないようです

瓜生島

http://boumurou.world.coocan.jp/island/10/uryujima.html#introduction

 

 

出版社紹介

「慶長元年、別府湾上にある周囲3里もある瓜生島が大地震津波で一夜にして陥没した―水戸彰考館に田舎儒者と侮られた豊後府内藩儒笠春兆は“瓜生島海没”の地誌を編纂した。しかし、その信憑性が問われた。果して実在の島か、幻の島か。その謎をめぐる論争は現代まで続く。表題作など時代小説の秀作5篇」。

白石一郎「幻島記」01

白石一郎「幻島記」文春文庫