D・M・ディヴァイン「すり替えられた誘拐」(2023:創元推理文庫)

こんばんは皆様、三頌亭です。読んだはいいけど感想を書いてない本が溜まりつつある今日この頃ですねw。というわけでD・M・ディヴァイン「すり替えられた誘拐」です。これでディヴァインもおしまい、大体の本は読んでしまいました。もうないのが残念です。で本作ですが、簡単に言うと前半本格推理、後半サスペンス小説といったところでしょうか?。フィリップ・マクドナルドの「Xへの逮捕状」みたいな構成ですね。ラストがなかなか驚きの秀作です。ところでディヴァインの経歴を外国のサイトで調べてたのですが、この方、大学の職員さんだったようですね。実はどの作品も非常に丁寧に作られた「出木杉君」なので不思議に思っていたのですが、納得いたしました。ちょうど中町信の十作品目くらいまでの感じ(11作目くらいから職業作家に転向)です。プロがダメというわけではけっしてないのですが、原稿料で生活するとなるといろいろあるでしょう。いいピッチで作品を発表できたのはディヴァインにとって幸せだったのでしょう。

 

追記:シムノン「サン=フォリアン教会の首吊り男」が新訳で出ています。私は角川文庫で読んだのですが、非常によかったように思います。シムノンの初期の作品には面白いものがあくさんあっていいです。以前のブログでも同じことを書きましたが、再度ご紹介いたします。

 

出版社紹介

『問題はすべて親の金で解決、交際相手は大学の講師──そんな素行不良の学生バーバラを誘拐する計画があるという怪しげな噂が、大学当局に飛びこんでくる。そして数日後、学生たちが主催する集会の最中に、彼女は本当に拉致された。ところが、この事件は思いもよらぬ展開を迎え、ついには殺人へと発展する! 謎解き職人作家ディヴァインが誘拐テーマに挑んだ、最後の未訳長編。解説=阿津川辰海』

ディヴァイン「すり替えられた誘拐」

ドミニク・ディヴァイン肖像

シムノン「サン=フォリアン教会の首吊り男」

 

白石一郎「幻島記」(文芸春秋:1976)

こんばんは皆様、三頌亭です。今日は白石一郎の第一短編集「幻島記」です。滝口康彦の『異聞浪人記』を紹介した時に同時に思い浮かんだ作家が白石一郎です。彼らはプライベートで友人だそうで九州在住の時代小説の書き手でした。どちらも地方史に取材した作品を多く書いております。そのなかで三頌亭の一番印象に残っている白石一郎の作品集が「幻島記」です。

 

収録作品は「幻島記」と「蝸牛の城」「消えた男」「一炊の夢」「孤島の騎士」の5作品です。とりわけ瓜生島伝説を扱った表題作「幻島記」が面白いです。落魄の藩儒笠春兆の悲しさというか、偽説を自分自身に信じ込ませ、証拠を捏造までしていくところがなんとも哀れでよろしいですねw。また最後の「孤島の騎士」は出島商館長ヘンドリック・ドゥーフを題材にした短編で、ナポレオンによりオランダが消滅してしまった時期の出島のお話です。従来の美談とは異なりドゥーフの怪物ぶりが異様な迫力をもって書かれています。直木賞候補作3編を含む計5編の秀作短編集、皆様はいかがでしょうか?

 

因みに「瓜生島」については下記サイトをどうぞ。まんざら伝説でもないようです

瓜生島

http://boumurou.world.coocan.jp/island/10/uryujima.html#introduction

 

 

出版社紹介

「慶長元年、別府湾上にある周囲3里もある瓜生島が大地震津波で一夜にして陥没した―水戸彰考館に田舎儒者と侮られた豊後府内藩儒笠春兆は“瓜生島海没”の地誌を編纂した。しかし、その信憑性が問われた。果して実在の島か、幻の島か。その謎をめぐる論争は現代まで続く。表題作など時代小説の秀作5篇」。

白石一郎「幻島記」01

白石一郎「幻島記」文春文庫

 

和田竜「村上海賊の娘」(上下巻:新潮社2013)

こんばんは皆様、三頌亭です。今日は和田竜「村上海賊の娘」です。もう出てから10年もたってしまいましたねw。実を言いますと死闘・石山本願寺vs織田信長みたいな作品をどなたか書いてくれないかとよく思ってました。そこへドンピシャでやってきた作品で舌なめずりして読んだ本でしたw。おまけに村上水軍という地方史までついてきて大好きな作品です。あらすじ等は出版社のものを読んでいただくとして・・・、内容は第一次木津川合戦の史実に基づく歴史巨篇でございます。「村上水軍ジャンダルク戦記」といったところでしょうか?。著者は中学生まで広島で過ごしたことがあってやはりそれが強い執筆の動機らしいです。「のぼうの城」でもそうなのですが郷土史の晴れ舞台的なところがなんかうれしいですw。史料については最後に参考文献などもついていて非常によく調べていてとっても詳しいですね。ただやっぱり立体的に物事が把握しにくいという方のために吉田史朗作画のコミック版(週刊ビッグコミックスピリッツ連載)を推薦しておきます。原作にはないエピソードなんかもありますが、おおむねわかりやすいですね。ただ合戦のシーンが多くてアドレナリン・ダダ洩れwwみたいな絵柄がちょっとだけいただけないでしょうか?。

 

出版社紹介

「『のぼうの城』から六年。四年間をこの一作だけに注ぎ込んだ、ケタ違いの著者最高傑作! 和睦が崩れ、信長に攻められる大坂本願寺。毛利は海路からの支援を乞われるが、成否は「海賊王」と呼ばれた村上武吉の帰趨にかかっていた。折しも、娘の景は上乗りで難波へむかう。家の存続を占って寝返りも辞さない緊張の続くなか、度肝を抜く戦いの幕が切って落とされる! 第一次木津川合戦の史実に基づく一大巨篇。」

和田竜「村上海賊の娘

コミック版「村上海賊の娘

第一次木津川合戦01

第一次木津川合戦02

第一次木津川合戦03

 

佐藤恵秋「雑賀の女鉄砲撃ち」「雑賀の女鉄砲撃ち 鋼輪の銃」(2018:徳間時代小説文庫)

佐藤恵秋「雑賀の女鉄砲撃ち」「雑賀の女鉄砲撃ち 鋼輪の銃」(2018:徳間時代小説文庫)

こんばんは皆様、三頌亭です。これはちょっと前に読んで記事にしてなかった本です。紀州雑賀衆をテーマにした小説です。和田竜さんの「村上海賊の娘」なんかと発想が似てなくもないですが、・・まあ良しとしましょう。ニューウエイブ時代小説とまではいかないのですが、歴史ものの周辺の話題をうまく料理したところが面白いです。三頌亭としてはNHK大河ドラマのような話題からは外れた雑賀衆というところが好物ですねww。ただ周辺歴読本的名所めぐりのようなところが多いのでもう少し主人公のことを書き込んでほしかったといううらみがあります。それにしても羽柴秀吉の書かれ方がすごい(ひどいww)ですね。これではただの女狂いのオッサンですな。何はともあれ時代小説お好きな方いかがでしょう?

 

出版社紹介

「雑賀の女鉄砲撃ち」

『戦国を駆け抜けた女鉄砲撃ち四姉妹の波瀾万丈の生涯。本格歴史冒険小説登場!紀州雑賀は宮郷太田左近の末娘・蛍は、鉄砲に魅せられ、撃術の研鑽に生涯をかける。雑賀衆は、すぐれた射手を輩出する鉄砲撃ち集団だ。武田の三河侵攻に対し織田信長が鉄砲三千挺を揃えたと聞いた蛍は、左近に無断で実見に赴く。三州長篠で三段射撃戦法により、最強の武田騎馬隊が粉砕される様子を目の当たりにした! 信長、家康を助け、秀吉、雑賀孫一と対立。戦国を駆け抜けた稀代の女鉄砲撃ち蛍はじめ四姉妹の活躍を描く歴史時代長篇。』

 

 

「雑賀の女鉄砲撃ち 鋼輪の銃」

紀州雑賀は宮郷太田左近の娘・蛍は、射撃術の研鑽に生涯をかける女。

秀吉に太田城を水攻めで落とされ、父母姉妹と一族を失った。秀吉への復讐を誓い、新開発の鋼輪銃を手に戦場を駆ける。義賊・石川五右衛門大坂城に潜入したり、徹底的に豊家に抗うのだった。義なき朝鮮出兵に立ち向かうため半島に渡った蛍は、帰国後、関ヶ原へ赴く……。戦国を鮮烈に駆け抜けた女鉄砲撃ち再び!

(歴史時代冒険長篇)

<目次>

序章 忍城水攻め

第一章 往き残りしものたち

第二章 鋼輪の銃

第三章 盗賊石川五右衛門

第四章 伏見築城

第五章 殺生関白

第六章 残火再燃

第七章 玉女略奪

第八章 天変地異人為

第九章 慶長の役

第十章 家康策動

第十一章 天下分け目

第十二章 関ヶ原に踊る

終章 泰平の世』

雑賀の女鉄砲撃ち

 

夾竹桃「戦国小町苦労譚」(アース・スターノベル16巻&アース・スターコミック13巻:以下続巻)

こんばんは皆様、三頌亭です。今日は気になって少し読んでみたらずるずると全部読んでしまったというシリーズですw。夾竹桃「戦国小町苦労譚」ですね。簡単に言うとこのシリーズは「架空戦記+知識チート」と言ったらよいでしょうか?。なんでも作者は半村良の「戦国自衛隊」を読んだのがきっかけになったのだとか。むしろ戦国時代の歴史をどちらかというとあまり知らない人にお勧めでしょうか?。コミカライズ版もあってこちらのほうがよりわかりやすいでしょう。ノベルズ版はなかなか文語調の表現がよろしいです。特に三方ヶ原の戦いの時の檄文には驚いてしまいました。全体としては武田軍との激突あたりまでが面白いです。最新刊・16巻あたりになってきますと主人公・静子のあまりの天才軍師ぶりにちょっと辟易気味ですが・・・w。因みに小説はウェブ版があって下記で全巻読むことができます。戦国武将とかお城大好きな方いかがでしょう?

https://ncode.syosetu.com/n8406bm/

 

アース・スターコミック版紹介

「農業高校に通う歴史好き女子高生、綾小路静子はある日の学校の帰り道、突如戦国時代へとタイムスリップしてしまう。目の前に現われたのは――憧れの織田信長!? 信長の兵に捕らえられ、咄嗟に「農業で才を示す」と約束してしまった静子は尾張国の農業改革に乗り出すことになり…!?『小説家になろう』発、「豆知識」ふんだん系新感覚時代小説待望のコミカライズ化!」

夾竹桃「戦国小町苦労譚」

 

フレデリック・フォーサイス「ジャッカルの日」(1973:角川書店)

フレデリック・フォーサイスジャッカルの日」(1973:角川書店

こんばんは皆様、三頌亭です。今日は久しぶりに再読した本、フレデリック・フォーサイスジャッカルの日」のお話です。なんと50年ぶりの再読本ですねww。当時すぐに名匠フレッド・ジンネマンにより映画化されて、こちらのほうは以前紹介したことがありましたか・・、傑作かと思います。原作のフォーサイスジャッカルの日」はさすがに時間(当時中学生ww)がたちすぎていまはどうかな~とか思いながら再読したのですが、初見の印象より精密に書かれていてまだまだ問答無用の面白さがあります。皆様、いかがでしょうか?

 

出版社紹介

「フランス、秘密軍事組織が企てたドゴール大統領暗殺―。依頼を受けたのは、一流の腕を持つ外国人殺し屋、暗号名“ジャッカル”。国内全土で頻発する強盗事件を捜査するなか浮かび上がってきた暗殺計画に、政府には激震が走った。殺し屋の正体を突き止め、計画を阻止すべく、極秘捜査が始まる。国家最大の難題に挑むのは、国内一の刑事、クロード・ルベル。国際諜報小説の巨匠、デビュー作にして最高傑作!」

ジャッカルの日01

ジャッカルの日02

ジャッカルの日03

ジャッカルの日04

 

M .W. クレイヴン「キュレーターの殺人」 (Constable:2020, ハヤカワ・ミステリ文庫:2022)

こんばんは皆様、三頌亭です。今日は〈ワシントン・ポー〉シリーズ第三作「キュレーターの殺人」です。実はこれebookで5巻セットで買うと安いので買ってあったものです。2巻目をすっ飛ばして、3巻目の「キュレーターの殺人」が評判が良さそうなので読んでみました。少々ページ数が多いうえに、読むのが遅くて1週間ほどかかってしまいましたww。

 

ところで今回は力技というか本格的要素とサスペンス小説の合体がすごいですねw。のっけから指が2本、クリスマスプレゼントに混じっていたという衝撃の場面から始まります(イギリスのヤクザさんはやっぱ指なのかとか妙なこと考えてましたw)。そのあとの展開は少々たるみもありますが後半は一気に読めると思います。かなり複雑かつ緊密に構成されたプロットと設定が素晴らしいです。これだけでもかなり楽しめます。

 

ただ、これは三頌亭の個人的な代物ですが・・・ラストがいけません。最後に黒幕が控えてるのは途中の展開からたいていの人はわかると思います。が・・・悪人に魅力がないです。動機を聞いてまたがっくりww。最後はポーのハードボイルドでまあまあよろしいでしょう。それから部長刑事ポーのキャラクターなんですが、クロフツフレンチ警部ロス・マクドナルドリュウ・アーチャーを足して2で割ったようなイメージでしょうか?。ちょっとおもしろいです。余談ですがITの天才、分析官のティリーさん、ほとんどドラえもん状態ですごいですww。まあポーはのび太君ではないですが・・・。さらに蛇足ww、あんまりいうとネタばれになるのですがたしかケネディ大統領も同じ持病だったかと記憶しています。

 

「クリスマスの英国カンブリア州で、切断された人間の指が次々発見された。プレゼントのマグカップのなか、ミサが行われた教会、そして精肉店の店内で――。現場には「#BSC6」という謎めいた文字列が。三人の犠牲者の身元を明らかにしようと国家犯罪対策庁のワシントン・ポー刑事とステファニー・フリン警部、、ティリー・ブラッドショー分析官らが捜査に乗り出す。だが彼らはまだ知らない。この連続殺人の背後に想像を超える巨悪「キュレーター」が潜んでいることを……。ポーやティリー、フリンたちが相対する敵の正体とは!? 驚愕必至のシリーズ第三作。解説/若林踏」

M .W. クレイヴン「キュレーターの殺人」