ウィリアム・アイリッシュ「幻の女」

こんばんは、皆様、三頌亭です。今日は大変有名なミステリ作品のお話です。学生時代、アイリッシュが好きでせっせと本を集めて読んでいた時期があります。本格推理というとついつい手を出してしまう三頌亭ですが、本当はサスペンス小説のほうが好きなのではないかと自分でも思うことがあります。

アイリッシュというと有名なのが「幻の女」です。これには乱歩の熱に浮かされたようなエッセイがあって、これを読んで「幻の女」を読まない人がいたら、そのひとはきっとミステリは嫌いなのではないかとすら思ったものでした。
「昭和21年2月20日読了、新しき探偵小説現れたり。世界十傑に値す。ただちに訳すべし。不可解性、サスペンス、スリル、意外性、申し分なし」と乱歩は記しています。

私も多分に漏れず、当時出ていた稲葉氏の翻訳を読んで大変感心したものでした。私が好きだったのは全編を覆うなんともいえない孤独感で、私生活でも大変孤独であったアイリッシュの人となりが良く表れているものでした。ストーリー自体は今となっては少し使い古されたものになってしまいましたが、その細部の描写は今でもじゅうぶん鑑賞に堪えるものでしょう。

写真は乱歩が読んだものと同じ版のポケットブックです。現在でも乱歩邸には彼の書き込みのあるこのペーパーバックが保存されています。もう一冊は同時期のウールリッチ名義の傑作「黒い天使」です。これらは戦後すぐの出版ですがたくさん残っていてまだ廉価に入手出来るようです。

*過去記事からの転載です。写真のペーパーバックはいまはもうありませんが、paperback warehouseというペーパーバック専門の古書店から買ったものです。ご店主はこの本はこういう商売を始める契機となった本だといってこのポケットブック版の「幻の女」あげておられました。三頌亭とよく似た思いの方がおられたので非常にうれしかったものです。

 

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ポケットブック版「幻の女」