三頌亭縁起再訪

こんばんは、皆様、三頌亭です。さて、お気づきの方もおられるかもしれませんが、当ブログのタイトル「三頌亭日乗」はある本の題名から思いついたものです。別に深い意味はないのですが、とっさに思いついたのが当ブログのタイトルとなっております。その本は式場隆三郎二笑亭綺譚」(昭森社:昭和14)といいます。色々な本が出版されますが、類書が無いという点では飛び切りの本で、それゆえか時代は変われ、なかなかしぶとく再版され続けております。

この本は山下清を発掘した精神科医式場隆三郎による、怪奇な建築・二笑亭のルポタージュです。戦前、東京深川にあった分裂病のお金持ちが立てた家「二笑亭」に関する唯一の資料がこの「二笑亭綺譚」です。この本にはモノクロ写真40枚ほどが載せられておりまして、その不思議な建築の詳細を理解できるようになっています。

ものの置けない傾斜した棚、登れないはしご、節穴に埋め込まれたガラス板(のぞき穴)、和式と様式のくっついた風呂、独特のデザインの玄関・・などなどなんとも不思議な異空間というのがぴったりの「二笑亭」です。傑作だったのはやはり壁土に除虫菊を塗りこめる(蚊除け)というアイデアでした(笑)。また二笑亭主人の語録が収められていてこれがなんとも奇矯なものばかりでした。


この本は昭和14年昭森社より発行されておりまして、限定版のほうは芹沢銈介装幀で跋文を柳宗悦が書いております。写真はネットから拾ったものです。余談ですが、何度か売られているのを見ましたが大変高価でした。現在までのところ色んな版があるのですが、筑摩文庫に収められたものが一番入手しやすいです。

追記:類似のテーマとして次のような本があります。

岡谷公二氏「郵便配達夫シュヴァルの理想宮」(河出文庫
https://4travel.jp/travelogue/10658060
こちらは観光名所で現在も残っております。ブルトンやマルローが絶賛した怪建築です。

ロバート・リンドナー「宇宙を駆ける男」( The Jet-Propelled Couch
精神科医ロバート・リンドナーの臨床報告集。何といっても圧巻は「宇宙を駆ける男」でしょう。SF作品ともいえる精緻な描写には脱帽です。臨床報告であるにもかかわらず、人間精神の複雑さを垣間見させてくれる稀な作品といっていいでしょう。
『宇宙を駆ける男 精神分析医のドキュメント』(川口正吉訳:金沢文庫1974)
『宇宙を駆ける男』(再録:新人物往来社『怪奇幻想の文学7 幻影の領域』1979)

追記その2
旧記事からの転載です。この記事を書いてからほどなくして収録本を入手しました。
Robert Lindner, Jonathan Lear「The Fifty-Minute Hour」(Other Press 1999)
現在邦訳は絶版なので残念です。どなたか、アンソロジーにでも収録してしてくれないかとよく思います。

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二笑亭綺譚01

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二笑亭綺譚02

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理想宮

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ロバート・リンドナー「宇宙を駆ける男」